ミュージカル「アイラブ坊ちゃん」

 拝啓 濱畑賢吉 様

 ミュージカル「アイラブ坊ちゃん」の作品そのものは素晴しく、音楽も馴染みやすく爽快感を与えてくれるものでした。しかしながら、松橋版を拝見した感想としては、全般に"ドタバタ喜劇"調になっていて、肝心な漱石先生と坊ちゃんまでが「軽薄」に見えてしまっているところが唯一残念なところです。夏目漱石とその作品は、臨床心理学の教科書になっているほどのものです。発せられた言葉の一つ一つに無駄が無く、屈折した人間心理を「表層」から、 ときどき「深層」を垣間見ることが出来るような「台詞」になっています。

 ミュージカル「アイラブ坊ちゃん」の劇中で、その台詞がそのまま飛び交っていますが、そこでその台詞が発せられる意味を理解していないまま演じているように感じてしまいます。たいへん残念なことです。原作を理解して作ったら、そこに重厚さが加わると思います。さらに歌唱力についてのお願いですが、声量と音域をも努力で向上させる意気込みを感じさせて欲しいのです。良い舞台を見せようとする意気込みが観客に感動を起こさせると思うからです。

 土居健郎著「漱石の心的世界」(至文堂)と「漱石文学における甘えの研究」(角川文庫)から、坊ちゃんから「坊ちゃんの性格」と、こころから「先生の過去」を抜粋し、参考資料としてお送りします。坊ちゃんの全てを受容し賞賛する清に漱石は「妬み心」を抱いていましたが、それが軽減するにつれて妻鏡子の愛を受け入れられるようになります。そして妻に対する「屈折した甘え」が「素直な甘え」に変化する。「会話と社交」を象徴するキャッチボールを子規から教えられて効を奏し、家族や周囲と交流できるようになり、人間関係を作り出せるようになる。この流れを鮮明にするためにも、中学校でのエヒソードを極力削った方がよいと思うのですが。

 

 

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