THEAT*PREVIEW

第3巻5号(通巻17号)平成15年12月6日

 

 

[ エクウスー目醒めて湧き出る青春の恐怖ー ]

 夢の解釈はフロイドの精神分析で知られていますが、明恵上人の夢の記録はイタセクスアリスとして有名です。修行の身は煩悩との戦いですが、思春期からは未知の欲動を抑え切れない恐怖に慄く日々だったようです。破戒は僧侶への道を閉ざすからです。

 信仰心の強い母に育てられた素直なアラン少年は、アルバイト先の乗馬クラブで、年上の女性ジルに誘惑され姦淫の罪を犯します。馬の目をアイスピックで突き刺すという猟奇な事件の真相は、馬房内での情交を馬に目撃されてしまったという、枯尾花に怯える少年の気弱な心理と考えられていました。しかしジルが出現する前には、馬を親愛し崇拝していた事実がダイサートの分析治療によって露呈されます。

 

 [ ひかりごけー分かって貰えない苦しみー ]

 江戸っ子は「汁たっぷりで蕎麦を食いたかった」と言うそうですが十字架上のキリストは「父よ私を見捨てたか」と呟き、仏陀は臨終の床で「終えるには魅惑すぎる」と嘆いたそうです。ゲーテの「もっと光を」は、もっと生命をだったかも知れません。それほど魅惑的な人生も天災や不慮の事故で、突然終わらされてしまうことがあります。

 そこに臨んでも、生き残る可能性が僅かでもあれば、生への執着は爆発的に増大するでしよう。しかしそれが「人肉食」だったら、その葛藤は計り知れません。白い壁で塞がれた密室は、雪と氷りに鎖された絶望の象徴です。そしてその情景は「受難劇に似た騒然たる静寂」を感じさせます。キリストが「彼らは何も分らずやっている」と呟いたように裁かれる船長は、「人肉食は犯した者にしか分らない」と無意味な裁判に苛立ち、「なんも解んねぇでやってるだ」と吐露します。

 

 

Mail to Theatergoers

 


もどる