アウト・ドア & クッキング
  月刊「狩猟界」誌 掲載
 痛快な都会の田舎ぐらし


 Part 5  野外料理を楽しむ 

 

愛犬たちに夏場も川原はオアシス。朝夕の
涼しい時間帯を選んで連れて行きたいもので
す。ところが、水に入ったり出たりのワンた
ちは、以外と暑くはないようです。
    

  

 ユーミンが歌う“中央フリーウエィ”は、府中南部を東西に走る中央高速自動車道です。  ユーミンは竹村さんのことと思い込んでいる人でも、ユーミンが超人気の女性歌手であることは知っているのではないでしょうか。 “右に競馬場、左にビール工場、夜空に続く滑走路”と歌われていますが、そのビール工場と多摩川の間に魚市場、青果市場、その他を擁した巨大な「卸売市場」があります。この卸売市場には必要な食材がすべてそろっていますので、都会の田舎暮らし人に居ながらにして田舎料理の材料を与えてくれます。

               川端の市場は食材宝庫

 痛快な都会の田舎ぐらし人は、都会に暮らしていても田舎暮らしは可能であると考えています。しかし、視覚的には緑豊かに見える自然でも工場排水や産業廃棄物からの科学的有害物質で汚染されているのではないかと思ってしまいますと、それを採取して食べてしまう気にはなれません。 多摩川にはフナやアユばかりでなく、70〜80cm以上もある大ゴイがたくさんいることでも知られていますが、おおぜいの釣り人たちのほとんどは釣ることが目的で、釣ったものを食べることが目的ではないと思います。 毎日のように多摩川で釣りをしている知人は、いつもバケツに一杯もの雑魚を釣り上げていますが、家猫と野良猫たちに食べさせているのだと言います。「食べたくならないか」と尋ねますと、「うまそうだけど、食べたら大変だもんねぇ」と言います。誰も食べてはいけないことを承知しているようですし、近年、食べたという人に合ったこともありません。

  わずかな野草を採取して食べたとしてもなんら問題はないでしょうが、採取して食べるなら人家から離れ、人が滅多に立ち入らないところに自生する山野草を採取したいと思います。川魚も川の水がきれいで飲めそうなところに棲むものを釣って食べたいと思います。 そう考えて日帰り半日ドライブ旅行をするのも楽しいことですが、必ずそうしなければ美味しいものを安心して食べられないというのも面倒なことです。 ところが、都合よく多摩川べりに前述の何でも揃っている卸売センターがあってくれるものですから、こんなにありがたいことはありません。センターの市場にあるタラノメであるとか山ウドなどは、早めに山取りしてビニールハウスで促成栽培しているので、味と香りが弱く、姿はヒョロリと徒長気味です。しかし、贅沢は言っていられません。

 

 

 簡単に手に入って安心して食べられるのは魅力です。ちょっぴり我慢すれば満足が得られます。  山菜は春の味と香り 春になると真っ先にフキノトウ(蕗のとう)を探したくなります。春を確かめたくて探すのかも知れません。フキノトウが顔を出すところは大概あまりキレイなところではありませんが、泥沼から清楚なハスの花が咲くことを考えて、薬味程度で大量に食べるわけでもないのだからと、毎年同じ台詞をつぶやきながら摘み取ります。 散歩の途中で数個ポケットに入れて戻ると、いろいろな楽しみ方ができます。 そのままミジン切りにして味噌汁にぱっと散らす食べ方、細かく刻んで油で炒めて味噌と砂糖をからめる食べ方、裏面に衣をつけてテンプラに揚げる食べ方などがあります。 しかし、なんと言ってもフキノトウの味と香りを十二分に生かして食べる方法は「フキノトウのスパゲッティ」です。

 フキノトウのスパゲッティ  アウトドワ・クッキングの調理用具は簡単が一番ですから、深めのフライパンか鍋があればなんとかなりますが、出来上がったスパゲッティを皿に移してから食べる優雅さは欲しいものです。できればクーラー・ボックスにワインを持参して、グラスを傾けながらフキノトウスパゲッティを食べたいものです。  材料 スパゲッティ(入出できればデュラムセモリナ10割粉のもの)、バター、塩、コショウそしてフキノトウ、現地に自生していて食べごろであるか事前に確認しておかないと、ただのバター味のスパゲッティを食べることになってしまいます。  作り方 (1) たっぷりのお湯でスパゲッティを茹でます。 (2) フキノトウをみじんに刻みます。まな板と包丁を持参するのが面倒な場合は、ナイフか鋏で刻んでもよいのです。 (3) 茹であがったスパゲッティを鍋に残してお湯を流し棄て、そこにバターを投げ込んでもよいのですが、できれば木製の器に盛り、熱いうちにバターを乗せたほうが上品かもしれません。 そこにみじん切りのフキノトウを混ぜ、塩、コショウで味を整えます。 美味しく作るコツは、薪をたくさん集めて十分な火力で茹であげることです。 バターの香りとフキノトウの苦味が独特の調和をみせる逸品となります。

 

 

  はセキ、タン、健胃、便秘、食欲増進の妙薬  蕗には昔からセキをしずめ、タンを切る作用があることが知られています。ぜんそくにも効きめがあり、消化液の分泌をうながして胃弱にも効果があります。これらの作用はテルペンという精油と苦み成分によるもので、よい香りとほろ苦みが食欲を増進させてくれます。 また毒消しの効果もあり、青魚の煮物につけ合わせるのはそのためです。 セキが出てタンが切れないときには、10〜15gを1カップの水で半量になるまで煎じ、カスを漉して食後2〜3回に分けて飲むか嗽をします。 フキに玉子、蜂蜜、牛乳を加えてミキサーにかけますと、食物繊維を多く含んで胃腸によく便秘の予防にもなる、咳止めミルクセーキとなり、美味しく治せます。

 筍の極めつけ料理  タケノコは掘り起こしてから時が経つにつれてアクが強くなり、エグ味を増します。頂き物をおすそ分けするときに、誰もが異口同音に“朝掘りもの”だからと強調するのもそのためでしょう。 日本の伝統料理に「奉書焼き」があり、いまは家庭料理のアルミホイル焼きに、それを残しています。“包み焼き”という優れた調理方法で、焦がさずに焼きあがり同時に蒸し、包むことでうま味を閉じ込めます。封を開けたときに立ちのぼる湯気は鼻孔から脳天に突き刺さる香気です。タケノコは皮がその身を幾重にも包んでいるので、そのまま火にかけたり、オキ火に埋め込むだけで、“包み焼き”になってくれます。  竹薮をめざして行き、その所有者らしき農家を訪ねますと、タケノコ掘り専用のクワを貸してくれて、必要なだけ掘りますと、目方を量り、農協へ出荷する料金で譲ってくれます。すぐに川原へ行って石を積んで炉をつくり、流木や枯れ枝をたくさん集めてオキ火が大量に残るよう、勢いよく燃やします。そして、その間にタケノコの“包み焼き”すなわちタケノコの丸焼きの下ごしらえをします。  タケノコのオキ火焼き  調理用具は、包丁かナイフのみで結構です。

 材料 掘りたてのタケノコ、醤油、酒、好みによっては隠し味の砂糖少々か一味唐辛子を少々。  作り方 (1) シノ竹か木の枝の先をエンピツのように削って、タケノコの底を2〜3mmの厚みで切り落としてから、そこに穴をあけて目いっぱい奥まで差し込んで通りをよくしておきます。切り落としたところは棄てないで、あとで蓋として利用する。 (2) 穴に酒と醤油を注ぎ込みます(隠し味の砂糖を少々か一味唐辛子を少々入れてもよい)。先ほどの切り落としで蓋をして、小石を重しに置いてもよい。 (3) オキ火の中に、酒と醤油がこぼれないよう穂先を下にして立てるように差し込む。約40分間は置いて丸焼きにする。 (4) 焼き上がったら取り出して、皮を剥いてアツアツををかじる。輪切りにすると食べやすい。 (5) まったく同じ調理法ですが、さらに穴を大きくあけて赤飯を詰めて「おこわ詰め」もうまい。

 

 

 筍は便秘、大腸がん予防、肥満、動脈硬化予防の妙薬  タケノコは中国が原産と言われ、昔から腸を滑らかにするとされてきました。豊富な食物繊維が便秘を防ぐほか大腸ガンの予防に役立ち、コレステロールの吸収を防いで動脈硬化にもよいとされてされています。 低エネルギーでカリウムが多いため、太っていて血圧の高い人には好適な食べ物です。便秘がちでニキビの多い人にもお勧めです。 ただし、この食物繊維は消化しにくいので、胃腸の弱い人や下痢しやすい人は食べすぎないことが大切です。 タケノコのように早く成長するものには、チロシンというアミノ酸などを多く含むために、特有のうまみがあります。エグ味のもとであるシュウ酸はカルシウムの吸収を防げますが、ワカメのカルシウムはこれをカバーできる以上に豊富で、しかも吸収率は牛乳以上によいので、吸い物やあえ物として一緒の料理にすることを勧めます。

 

 野外料理は創意と工夫  休日の家族ドライブは行楽地の川原でバーベキュー、夏休みの家族キャンプではカレーというのが定番となっています。考えたり迷ったりする必要がないほど手軽です。しかも簡単なわりには美味しいのですから、そう決めておいてもよいでしょう。しかし創意と工夫で野外料理のレパートリーを広げますと、とんでもない美味に出会って幸せをかみしめることができます。 市場で材料を買い込み、川原の焚き火で料理するわけですが、野外料理ならではのものというコンセプトで考えますと、おのずから調理法がみえてきます。 マグロの頭を一斗缶で煮て、兜煮をつくる。中落ちのテッカをそぎ取って食べた後に、骨を焚き火にくべてよく焼き骨ズイを食べる。小麦粉を溶いてフライパンで焼く、タネなしパン。レトルト・パックのご飯をそのまま焼いて、味噌か醤油で味付けした四角で平たい焼きおにぎりがよく合います。  ハイエナのように、競って食べると、より美味しく食べられます。