中国「お茶」事情

         

 昨年の秋イギリスへ行って知り得たことは、日本人が「高級煎茶」を日本人へのお土産として英国内にだいぶ持ち込んでいるということでした。そして日本人家庭では高級煎茶が収納場所を占拠してしまい、日本へ帰るときには処分に困るのではないかと心配したほどだそうです。毎日高級煎茶ばかり飲んでいて、ときに「玄米茶」や「昆布茶」を飲みたいと思ってもなかなか思うようにならないとのことです。

 英国王室や上流階級は北アフリカとスリランカで極少生産されている「淡緑紅色の紅茶」、緑茶のような紅茶が愛飲されているとのことで、それに憧れをもっていたアッパーミドルの人たちが日本人から気前よくプレゼントされた「高級煎茶」に興味をもったようです。さらに日本へ戻ってから詳しい人に聞いて分かったことは、英国王室で伝統的に愛飲されている淡緑紅色の紅茶は中国西南部で生産されている「プー・アール茶」の一種で、かつて胡椒など香辛料と一緒に遙々東洋からもたらされた霊妙な飲み物という捉えられ方を今もされているようです。

 その「ホコリ臭い」味がかえって有り難がられているとのことで、北アフリカとスリランカからのものは、その代わりとして好まれている緑紅茶だったようです。中国のお茶といえば即座に「ウーロン茶」と思ってしまっていましたが、イギリスでの見聞で若干の「緑茶」も生産されているという程度に認識を改めたところに都合よく中国へ旅行することになりました。それでも日本に入っていない銘柄はあるにしても、ほとんど「ウーロン茶」であろうと思っていましたが、お訪ねした北京にある中国中医研究院の高(がう)先生の説明によると、「緑茶」「紅茶」「花(ジャスミン)茶」が4:4:2の比率で愛飲されているとのことです。

 そして、緑茶は高級種だけでも10種以上あって高級種の中の最高級銘柄である「龍井(ロンジン)」は1キロ400元(1万円)はするそうです。その「龍井」を友誼商店(国営デパート)で買い求めましたら、100グラム75元(1900円)でした。それに対して、紅茶の最高級銘柄「鉄観音」は日本でも馴染みとなっていますが、1キロ120元(3千円)でしかないそうです。高先生の月収が200元(5千円)だそうですから、いかに「お茶」が高価なものかが分かります。北京の水道水はまずく外国人は下痢をするといわれていますが、彼らのお茶の飲み方はインスタント・コーヒーの空瓶のようなものに茶さじ1パイ分ぐらいの龍井を入れ、お湯をたっぷり満たし、飲んで減るとお湯を継ぎ足し、まる1日は茶の葉を変えず飲んでいるようです。

 そしてその「お茶瓶」をホテルでもデパートでも手の届くところに飾るように置いておき、勤務中でも適宜チビチビと飲んでいます。駅や空港のロビーの片隅に湯沸器が、練炭コンロの上に大ヤカンが置いてあり、5人に3人はその「お茶瓶」をもって歩いていて、2角(5円)を払ってお湯を継ぎ足しています。薄黄色く微かに色のついた液体のそこにお茶っ葉が揺れているのがお洒落でありステイタスなのかもしれません。

 緑茶は漢方薬として「解熱」効果が認められているので、中国の暑い地方、寒い地方、暑い時季、寒い時季によって、紅茶と飲み分けているそうです。その「龍井」を試飲してみた感想は、日本の「玉露」のような味わいに遠く、宇治の「芽茶」のような爽やかな風味でした。おなじ「緑茶」でも日中両国の異なった味わいです。 

 

 

 

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