強かなる女たち

 

 

 或る大学の保健管理センターで精神衛生相談を担当しています。例年4月からこの時期までは新1年生の相談が多く集中しますが、1年生の来談者数が減るにつれ、4年生の相談が多くなります。4年生は卒業に必要な単位を揃えなければなりませんし、卒論を書かなければなりません。更には就職の内定も取らなければなりませんので、クラブ活動やアルバイトに専念していた学生たちにとっては、とても大変なことのようです。機会のある毎に1年早く準備を始めるようにと勧めていますが、大概は半年遅れで事を進めているようです。

 保健管理センターは「精神衛生相談」ということであって、他に学生相談室や就職指導室がありますから、単位、卒論、就職などの相談の殆どは、そちらへ行けばよいようにも思いますが、不眠や不安が絡みますと当然のように来てしまいます。ノイローゼではないか、精神病ではないかと不安を訴える場合もありますが、ただ単に就職の内定が取れていないなどのためによるものが多いようです。ところが、来談の 際に異性の学生が付き添ってきた場合は事情が異なります。未修得単位が多すぎて卒業できない心配などの話かと思って聞いていると、いつの間にか「恋愛と結婚」の話になってしまうのです。

 4年生のカップルが来談した場合はほぼ間違いなくその話なので、前置きは省略するようにお願いしています。恋人の関係を通り越して既に学生結婚や同棲をしている者たちでも、「卒業」を境にして、関係をそのままにしていられなくなるようです。カップルが来談して、出方かが神経症状を訴え、時にそれと気づかず妊娠初期症状を訴える場合もあります。なんとなく「別れの時期」えお感じ、そうなっていくことに耐えられない方とそれを当然に思っている方が、そうでない方を引っ張って来るようです。しかも応じてくれない相手を是が非でも引き連れてきたいと思い、あたかも引き連れてきたいが為に症状を出すのは女子学生です。

 そして、殆どの場合に別れたくないのは男子学生で、別れたくて症状を出すのは女子学生です。やはり「強かなる女たち」は、就職後を「本番」と考えているのでしょう。ときに別れたくなくて症状を出した女子学生が、結婚の約束はできないという男子学生に付き添われて来談したことがあります。彼女はぽっちゃりした色白で木目込み人形のような可愛らしさですが、芯の強そうな印象がしました。昼休みに部室で彼女手作りのお弁当を仲よく食べたあと彼に尋ね「就職してそれからでないと結婚のことは考えられない」といわれてしまうと、急に気分が悪くなったと突然倒れ、吐き気がするといってトイレへ行き、めまいがして歩けないというので連れて来たといいます。

 彼はひょろりと背が高く、強いことなど言えそうもない、見るからに優しそうな感じの好青年です。彼女は「彼と結婚したら将来に希望がもてる」といい、「卒業した先に彼のいない生活は考えられない」と訴えますので、「結婚」について当分の間は保留にして、病気が治って自由に動けるようになるまで暫くは付き添ってあげて下さいとお願いしました。彼女の親しい友達によると「彼女は彼女の母親と同じ結婚を望んでいるから必ず彼と結婚するだろう」といいます。彼女の母親は定年間近まで勤め上げた公務員で、女が職業を持って勤め通すに理解ある人を相手に選んだと、彼女から聞いたといいます。揺るぎない現実感の下にアマゾネスのような「強かなる女たち」が脈々といるようです。 

 

 

 

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