車椅子生活者調査報告  

厚生省障害保健福祉総合研究事業
介助犬の基礎的調査研究・介助犬育成組織実態調査

 

大学祭にてのデモンストレーション。観客
は日光猿軍団のような芸を期待したようだ。

 

多摩介助福祉犬協会  運営委員長 中嶋柏樹

 

 

調査研究の目的

 

 わが国の介助福祉犬活動は始まったばかりです。自身が車椅子生活者である 八王子市に住む千葉れい子さんがアメリカでトレーニングを受けて、ブルース という名前のコンパニオン・ドッグを連れて戻りました。これがわが国に唯一 の介助犬であって、千葉さんらは国産介助犬第1号を育成しようと準備を進め ています。しかしながらごの動きは、生まれつきの障害が上肢にも及んでいる 電動車椅子生活者たちに限られています。

 交通外傷スポーツ外傷などによる中 途からの手動車椅子生活者たちは、なぜかこの動きに関心を示していないよう です。彼らこそかつての自由だった生活を少しでも取り戻したいと思うのが当 然のようですが、マスメディアなどによってその情報を得ても関心が持てない のか、或いはハンディを持ちつつ普通の生活を維持しようとする奮闘で、その 情報ばかりでなくマスメディアに関心を持てるほど気持ちに余裕のある生活で は無いのかも知れません。

 手動車椅子生活者たちに介助福祉犬活動が始まっていることを知らせるため と、彼らから求められた時に彼らの求めに応じられる態勢を作っておくために、 その実態を知るための調査を計画しました。しかし礼を失しないよう、市区町 村の福祉部や障害者手帳から手動車椅子生活者たちを辿るような手段は取らず、 依頼して任意で協力が得られた場合に面接調査を実施するものとしました。

 

ときに幼犬から育てて躾る方法を
希望するので、好ましいこととし
て応じている。 
        

        

 

 

 

調査研究の方法

 

 当介助犬協会の所在地である府中市を中心にして、概ね25Kmの範囲に存在 する事業所12箇所を対象としました。

 調査の手順としては、

(1)事業所正門の守衛所を訪ねて調査の趣旨を説明し、手動車椅子生活者 (以下車椅子者)が在職しているか否かを確認する。

(2)車椅子者が在職している場合には「障害者雇用係」に面会し、調査の依頼 に文書を要するか否かと被調査対象である車椅子者に礼を失しない協力依頼を教 えていただく。

(3)(2)が予定通りに進展しない場合は、同所健康管理センターの保健婦ま たは産業医に側面援助を依頼する。

(4)調査実施について、被調査対象である車椅子者の了解が得られても所属す る事業所の許可が得られない場合は、時間外、事業所外で実施することで了解を 得る。

(5)被調査対象である車椅子者と所属する事業所の都合で、通常の面接調査が 不可能な場合は、アンケート用紙への記入、電話による聞き取り、車椅子者の家 族らの協力をも含め、調査を完遂する。

 

このお宅にはペットと介助犬の区別はない。
介助犬をドッグショウーに出陳して、ついに
チャンピオンにしてしまった。快挙!  
   

 

 

 

 被依頼事業所の対応 

 

  (1)N電気府中事業場

 N電気社員である知人から車椅子者が勤務していると事前に知らされていました。 同事業所健康管理センターの保健婦は府中保健所の専門委員会で知己であったので、 同事務所勤労部の障害者雇用坦当者を紹介して戴けました。車椅子者への調査の 面接に応じて戴けるよう、そして職場で勤務時間中に実施できるよう関係者に"根回 し"までして戴けた。

(2)T府中工場

 正門守衛所で車椅子者が勤務していると確認してから総務部を訪ねましたが、障 害者雇用担当者は決まっていないので関係部署で協議するとのことで、文書で依頼 して欲しいとのことでした。文書で依頼して待っても回答が無いので、同事業所健 康管理センターの保健婦へN電気の健康管理センターの保健婦から説明して貰いま した。そして、車椅子者から面接に応じられないがアンケート用紙に記入するとの 連絡があった。

(3)B東京工場テクニカル・センター

 同事業所の診療所産業医と勤労部カウンセラーからの回答によると、「障害者雇 用促進法」の法定雇用率1.6%は十分充たしているが、聴力,内臓などの障害者 で車椅子者は雇用されていないとのことである。

(4)TEテクノロジー・センター

 人事部係長と健保組合参事に面識があったので文書で依頼をしたところ、車椅子者 から回答済みアンケート用紙が郵送されて来た。

(5)K電鉄

 人事部係長の回答によると、「障害者雇用法」の法定雇用率1.1%で平均的な雇用を しているが、車椅子者の雇用は無いという。診療所主査・産業医によると、障害者の雇用 は消極的で環境整備を必要とする車椅子者の雇用は今後も考えず、他の障害で充足して行くだろうとのことである。

(6)N多摩

 保健所保健婦の紹介で、この事業所に電話交換手として勤務する車椅子者の母親から 情報を得たが、娘の意思を尊重したいとのことで、正式ルートで申し込もうと依頼文書 を送付したが回答は無い。労務厚生課は文書が回って来てから返答するという。

(7)K百貨店

 依頼文書を郵送するも回答なし。勤務する知人によると、見かけないから車椅子者は いないのではないかとのことである。

(8)G光学研究所

 依頼文書を郵送するも回答なし。訪問すると車椅子者は在職していないという。

(9)S武蔵野工場

 依頼文書を郵送するも回答なし。守衛所では分からないといい、総務課員は追って 連絡をするという。

(10)T火災海上事務センター

 依頼文書を郵送するも回答なし。

(11)S食品グループ

 依頼文書を郵送するも回答なし。

(12)Sストアー流通センター

 依頼文書を郵送するも回答なし。

 

 日本一の介助犬にするのだと、
名前を「キング」と名付けたよ
うです。日本一の介助犬になり
ました。   
       

 

 

 

 車椅子者の生活実態事例

 


[事例1]K.M.さん 面接調査によるもの。

(1) 30才。25才時に職場の懇親会で酩酊とり、二階からの転落事故で負傷し、 車椅子の生活となる。身体障害者2級

(2)大学で電子工学を専攻し、誘導光電製造部で製作に従事している。

(3)ついにそんな時代になったかという感慨とともに「パートナー」と「ヘルパー」 という言葉が浮かぶ。

(4)リハビリが終了した職場復帰直前に車椅子者専用アパートが完成し、借り上げ 社宅としてもらえた。独り暮しだが、近くに姉が住んでいるので、いざの時は安心。  普段は誰にも頼らないで生活しているため、風呂はあきらめシャワーで我慢するなど 仕方ない部分はある。

(5)体力維持のために電動車椅子の使用は許されていないが、車椅子の移動に両手が とられ物を運ぶ時に不便である。スーパーで買い物の時などは背負うようにしているが 家の中では口にくわえてしまっている。洗濯物を干す時などは電動の車椅子を利用でき たらよいと思う。

(6)車椅子を後部座席に積み車椅子利用者用に改造された乗用車で、マイカー通勤 をしている。職場の建物と食堂売店などの中間地に専用の駐車場を、ドアに引き戸、 段差を無くしてスロープなど車椅子用に改造してもらってある。

(7)特にない。

(8)平日は食事と入浴とその準備と後始末のみで、わずかにテレビを観る時間がある程度。休日は平日に出来ない掃除と洗濯とスーパーへの買い物だけで終わってします。他の ことを考える余裕を持てない。

(9)障害者が自立した生活ができるよう専用の住宅もできたが、キッチンのシンクの下に膝が入らず「横洗い」するなど、利用者が求めるものと若干のズレを感じている。スロープを作ってもらってあっても、雪が降ったら外出できなくなってしまうということまでは、気付いてもらえていない。言いたいことがあっても遠慮が先にたち、気付いていてくれる人にしか言えない。



[事例2]M.I.さん 調査用紙記入によるもの

(1)46才。38才のころからパーキンソン病による体幹機能障害で、職場と外出時に 車椅子を使用。身体障害者2級。

(2)電気工学を専攻し、発電計算機システムのシステム・エンジニアリング。

(3)こういう犬がいると心強いと思います。しかし独りだけとなった時に、その犬の世話をどうするのかが気になる。

(4)父と母との三人家族で弟夫婦が近所にいる。 朝の着替え、食事と弁当の準備そして便所での手伝いなど、全面的に介添えを受けている。住居は一戸建て。

(5)現在のところ入浴は、会社が休みの日で、体調がよい時のみしかできないのが不満である。

(6)通勤はタクシーを利用しいる。玄関はスロープになっている。身障者用のトイレがある。机のまわりは車椅子で動けるよう広くとってある。

(7)障害者用トイレが遠いので、近くにあったら良いと思う。

(8)平日の夕方から寝るまでは、おもにテレビを観ている。休日は車椅子で散歩をするが、体調の良い時に入浴をする。その他の時間はテレビのスポーツを観ている。

(9)電車に乗って遠くへ行ってみたい。



[事例3]◯.◯.さん 調査用紙記入によるもの。


(1)28才。21才の時に交通事故で、障害は1級。

(2)電子工学が専攻で、現在はシュミレーションに携わっている。

(3)現在の自分には不要であるが、50〜60才ぐらいで一人になった時には必要 かも知れない。

(4)父親と同居している。室内は段差を無くし、エレベーターを使用している。

(5)現在のところ無し。

(6)乗用車で通勤している。段差をスロープにして、トイレも車椅子で使用できるよ う改造してある。

(7)開き戸が重く、開けるのにかなり力が必要である。



 

 介助犬を家族の一員に加えるためには、
利用者と家族に意見の一致が必要となる
ばかりでなく、第三者の協力も必要です。

 

 

 

調 査 の 結 果 と 考 察

 


 この調査は車椅子者のための介助福祉犬を育成し普及するプログラムの第二段階として実施したものです。ラブラドール犬の繁殖が可能となり、それに次いでの介助福祉犬育成の段階からは、利用者である車椅子者の意見を反映させて、一緒に計画を進めて行く必要が当然あるものと考えました。その考えに基づいて「実態調査」を実施し、車椅子者と 「出会い」介助福祉犬を「知って」もらうことを意図しました。

 車椅子者に"なんとなく"程度の認識しか持たなかったころは、わりと簡単に車椅子者と出会えるだろうと、これも簡単に思っていました。車椅子者の団体を紹介してもらうつもりで、当然のように市役所の福祉事務所の坦当者を訪ねました。しかし、応じてもらおうにも埒が開かず、そこに勤務する知人の口添えでようやく市内にある二団体を紹介してもらえました。さっそく二団体の会長に依頼文書を郵送しましたが全くの無しのつぶて、車椅子者に出会う難しさを知らされました。

 車椅子者の勤務する会社を訪問して、もし許されるなら「面接調査」を実施し、それが可能とならなくてもアンケート用紙を手渡せれば、ほぼ目的を達することが出来ると考えました。「障害者雇用促進法」が施行されてからは、事業所の規模がある程度以上であれば必ず障害者が雇用されていると思っていました。そして車椅子者は下半身に障害があっても上半身は健常であって、しかも真面目な勤務で定着してくれる分だけ重宝されるでしょうから、全身が健常である者よりも時に重用されるだろうと思いました。

 その車椅子者の生活を豊かにする介助福祉犬の普及を目的としたプログラムの一環としての調査ですから、事業所は快く応じて協力してくれるものと思いました。しかし多くの事業所は障害者の雇用状況を知られたくないようで、その対応の言外に、知られてしまっているなら隠しはしないが、知られて無いところは知られたくないというふうな様子でした。それは「障害者雇用促進法」の法定雇用率を充たしているか否か、あるいは努力してどの程度の率だけそれに近づいているかに強く関心があるようでした。

 そしてまた、「法定雇用率」を充たしているか或いは努力が認められる程度に充足して いても、雇用促進法にもとづいてどのような障害をもった人たちを雇用しているかは知られたくないことのようでした。その際の印象であって確かめた訳ではありませんが、雇用対象となる障害者のなかでは車椅子者はもっとも雇用されにくいようでした。それは難聴者や内臓障害者などのように、雇用の際にその者たちの為の環境整備の必要なく、多大な出費を伴わないために、法定義務を充たし且つ多大な出費を伴わない障害者を優先的に雇用しているのが現状のようです。本調査の目的から外れますが、車椅子者の就職希望者は 例年その時期にはかなりの数となるようですから、車椅子者を雇用しない事業所に問題があるのではなく、その「障害者雇用促進法」そのものに欠陥があるように思われます。

 先進的な法律が施行されて障害者の福祉が充実されて来ているようにみえるのは表面的なものであって、障害者の希望するものが反映されているとは思えません。障害者ということで十把一からげの施策に問題があるのであって、全ての障害に対して万遍なく雇用するよう義務づければ解決します。車椅子者などのように雇用するために職場の環境整備が 必要な場合は、かかる費用をその事業所に負担させないような配慮があればよいのです。 求める者に機会を与える努力を怠ってはいけないように思います。

 今回の調査で垣間見た印象では「障害者雇用促進法」の法定雇用率を十分に充たしている"一流企業"であっても車椅子者の雇用はなく、あってもわずかで、しかも雇用されていた健常者が事故か病気で車椅子の生活となった場合に限られているようです。車椅子者が特別枠に応募して採用されている例はごく稀で、車椅子者であることを承知で採用する事業所は残念なことに殆ど例外という程度しかないようです。

 今回の調査で「面接」に応じてくれた者が一名で、「アンケート用紙」に記入して返送してくれた者が二名という結果から講評することは出来ませんが、印象から、企業に働く 「車椅子者」をスケッチしてみると以下のように思えます。

 会社での勤務時間、通勤時間、買い物の時間、そして食事や入浴の時間とめいっぱい努力し頑張っているようで、睡眠時間以外はすべて緊張の連続で生活を楽しむ時間は殆ど無いように思えます。障害があっても健常者と同じように「普通」に扱って欲しいと望むのでしょうが、その為に頑張り過ぎてしまっているようです。「男女雇用機会均等法」で採用された「女性総合職」の女性たちのように、痛々しいほど努力し頑張っているように見えます。どのような場合にも、わずかにでも目立つと、周囲から冷たい目で「障害者のくせに」「女のくせに」と見られてしまうところが共通するのでしょう。

 また一人でアパート暮らしをしている場合と、家族と同居している場合とでは大変な違いがあるようですが、いずれにしても車椅子での想像を絶する毎日のようです。障害のない生活であれば数分ですんでしまうことが、障害があるがために数十分も数時間もかかってしまい、しかもそれが四六時中続き、休みなく続いているのです。わが国に生まれ障害を持つことは二重の苦しみであるという明治時代の名言は今にも当てはまるように思えてしまいます。80才を過ぎたお年寄りを60才前後の家族がお世話していて、疲れ切っていることが社会問題になりました。そして、それを地域で支えようとする気運が高まりつつあるように、障害者とその家族の過労も地域の人たちの協力で幾らかでも軽減されなければならないと思います。個人のみに犠牲を強いる時代は終わりにしたいと思います。

 介助福祉犬の存在を知らされて、にこやかに「こんな時代になったんですね」といってくれた一言が印象に残りますが、介助福祉犬を利用しようとする気持ちが起こる余裕が持てないようでした。介助福祉犬は落とした物を拾ってくれるなど車椅子者の手足となってくれるばかりでなく、生活を楽しく豊かにしてくれる伴侶となってくれる存在であることも理解してくれたようですが、真っ先に思い浮かぶのは「世話が面倒」であり「世話を頼めない」のようです。盲導犬はその訓練によって、一日一回決められた場所に排便をするなど、目が不自由でも世話ができるようになっています。

 アパートに一人で暮らす車椅子者の数よりも生家に家族と暮らす車椅子者の数が圧倒的に多いのは、家族からの介護が受けられる利便ばかりが理由ではなく住宅事情と経済的事情によるものも少なからずあるようです。家族の協力で障害からくる不自由を少なくして暮らせる現在に、将来まで保証されていない不安がつきまといます。希望すれば直ぐに入居できる公営の車椅子者専用住宅が建設されれば、家族の援助から自立すべくアパートに一人で暮らす車椅子者は自然な増加をみせるものと思われます。しかし、これを待たずに生家からアパートに出て自活する車椅子者が散見されますが、座して不安に耐えるより困難に立ち向かい、活路を見い出そうとしているようです。また、その行動は女性に多く見られるようですが、女性は仕事と家事労働とを両立できる素地を持っている為であり、革新的な環境に置かれている為かも知れません。

 近い将来に福祉が充実されて、きめ細かい地域の介護サービスによって障害からくる不自由を少なくして暮らせる生活が得られたとしても、家族の努力で得られた介護サービス程度のものは到底望めません。仮に毎日それが受けられたとしても、深夜早朝に望むことは出来ません。予定外の突発的なことは、同居していなければとても無理です。

 介助福祉犬の育成と普及のプログラムはスタートしたばかりです。出来るだけ早期に盲導犬のそれに近づきたいと思います。そして盲導犬も介助福祉犬も欧米なみになればと願っています。誰にも選択する自由が与えられてこそ、豊かな社会といえるのです。


 

フローリングの床に爪傷がつかない
ように、床材に樹脂加工したものが
あります。気孔に樹脂を浸透させて
臭気もつかないようになっています。

 

 

 

 結 果 の ま と め

 


   (1) 車椅子者は「電動」車椅子を使用している者と「手動」車椅子を使用している者とに大別することができ、電動車椅子者よりも手動車椅子者の方に介助福祉犬の潜在的な需要があるような印象が得られた。

(2) 府中市内と近郊にある12事業所に勤務する車椅子者を対象に「面接調査」を試みたが、内部協力者の援助で実施できたのは1例であった。面接調査はできなくても「アンケート」に応じたのは2例であった。

(3) 事業所は「障害者雇用促進法」の法定雇用率を充たしているか否かよりも、雇用している障害者の「障害の種類」にこだわっているようであった。調査の目的で無くても障害者の雇用状況について明らかにすることは消極的であっても拒否を示した。

(4) アパートに一人で暮らす車椅子者は仕事と家事に追われ、余暇や趣味を楽しむ時間はまったく無いようであった。家族と同居の車椅子者は余暇や趣味を楽しむ時間を持てても消極的である。いずれも介助福祉犬に興味をもつ気持ちになる余裕が無いようだ。


 この調査を実施するにあたり、絶大なご尽力を下さいました日本電気(株)勤労部主任 穴澤正弘氏、同誘導光電事業部課長伊藤伸二郎氏、同保健管理センター保健婦武田桂子氏 そして都立多摩総合精神保健センター保健婦相澤和美氏に衷心御礼申し上げます。



              調 査 報 告 後 記


 かつて車椅子で生活する人を、街中で見かけることは殆どありませんでした。ごく たまに駅の階段で駅員さんや数人の乗降客が顔を赤くして、重い車椅子のお客さんを 持ち上げている光景を見かけることがありました。そしてまた通路で段差に遭遇し、 わずか10センチ程度に立ち往生している姿を見かけることもありました。しかし現 在は車椅子生活者の社会参加のために専用エレベーターや専用トイレなど環境整備が すすめられ、一見すると車椅子生活者が社会進出するための条件は整っているように 思えます。健常者とおなじ"普通の生活"を求める車椅子生活者は社会参加を当然のものとして 考えているでしょうし、彼らが社会進出するための環境整備が充分なされているので あれば、どこへ行っても車椅子生活者を見かけることは珍しく無くなっているはずで す。

   しかし、改めて車椅子生活者の視点で眺めてみますと、外出目的で家を一歩ならぬ 一走りしたところで外出の意欲を消沈させられてしまうほど、路肩の傾斜、歩道の段 差、電柱外路灯、ごみ箱、そしてところかまわず放置された自転車の群れに往く手を 阻まれてしまいます。社会へ進出するための環境整備が"点"であっても今後整備され 続けて行くのであれば、その"点"が一本の"線"になるまで待ちます。しかし介助者な しでの外出はそれまでお預けです。誰にも気兼ねなく何時でも独りで外出できるのが 、念願の"普通の生活"なのです。  "点"が一本の"線"となって生活環境の整備が完了した頃には、その一環として住環 境の整備も完了しているものと思います。ドアでなくて引き戸、凸凹のない床、そし て配慮された風呂、トイレ、調理台など全てが車椅子生活者に快適な生活を約束して くれるでしょう。そしてボランティアの協力が得られて、ほとんど不自由を感じるこ となく生活が出来るでしょう。

しかし、その不自由無ない生活は、24時間可能というわけには行きません。ボランティアであっても家族であっても、他の人から協力が 得られる時間は生活の中の"点"であって、切れ目ない"線"を望むことは出来ません。  そこを期待できるのは人間以外の犬、盲導犬の例にならって「介助犬」ということ になります。うっかり落とした物を拾うのに電子技術を駆使した「介助ロボット」を 開発するよりは、介助犬を育成した方が比較にならないほど簡単です。目の不自由な 人が盲導犬をパートナーにして自由を得たように、車椅子生活者も介助犬をパートナ ーにして自由を得て欲しいと思います。




 

E、メール:oak-wood@ba2.so-net.ne.jp    
 H、アドレス:http://www02.so-net.ne.jp/~oak-wood/


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